【書評記事】就職しないという選択肢 矢作多聞「偶然の装丁家」
自己紹介が苦手、先生が嫌い、インドに移り住んでヒンドゥー教に改宗した。
それがこの本の筆者です。
偶然の出会い、まさに『偶然の装丁家』
私がこの本と出会ったのは実は偶然でした。
読みたい本がありすぎるので、極力図書館をぶらぶらしないように気をつけているほどの私なのですが、本当に偶然大学図書館で出会ってしまったのです…!
まず惹かれたのはやはり装丁でしょう。
私は肌の色が浅黒いこともあり、アジアンテイストの服や小物が結構好きです。
チャイを飲むのもオリエンティックなスパイスを見るのも好きです。
そんな私の好みに矢萩さんの装丁はぐっさり刺さってしまったというわけです笑笑
矢萩さんの装丁はどれもオリエンタルでインドのスパイスが香ってくるような作品ばかりで、読みたい!という感じはもちろんのこと、肌にしっくりくるような感触すら感じました。
実際内容を読んでみてもとっても面白いし、すっきりしたそれでいて屈託のない文章にはとても興味関心を惹かれました。
ここではさらに私が面白い!と思った内容についてポイントを絞ってご紹介します!
面白い!ポイント①作者の波乱万丈な人生
まず第一に面白いのは作者の生い立ちでしょう。
不登校の中学校時代からインドに行きたくなって、14歳からインドへ渡り、そのまま居住した人なんて身近にいます??笑笑
相当変わった人でしかもどうやら絵を描く人らしい、じゃそれならきっと独身男の寂しい本かな(失礼な偏見)かと思いきや、今は結婚もされていてこどももおられて、京都で暮らしている!なんてかなりびっくりしませんか??
この時点で既に面白いですよね。エッセイ向きの人生で羨ましさすら覚えます。
面白い!ポイント②作者の本や装丁への思い
日本に暮らしているとサービスと物は溢れ、ぴかぴかの新品がもてはやされ、いつもみんながせかせかと暮らしています。
でもインドはそうではありません。
何時間待っても電車が来なかったり、お水に当たって体調を崩したり、ぼろぼろの本が平然と本屋で平積みにされていたりもします。
それでも人々は暮らしていますし、心なしか日本人よりもゆったりと人間らしく生きている、そんな感じを私は感じるのです。
矢萩さんのアートへの思いは少し独特です。
矢萩さんの絵はインドの伝統的な描写から発想を得たもので、細かなレース編みのように緻密なパターンがいくつも組み合わさったものが多いです。
だからでしょうか。
まるで絵を見ているのではなくなにかのおまじないの札を見ているような気持ちになります。
矢萩さん自身は自分の絵を自己表現の道具であるとは考えておらず、『絵は見る人のためのものだ』と明言していました。
そのため、ギャラリーを開くときも「絵を買ってもらおう」「たくさんの人に来てもらおう」というよりも『来てくれた人にステキな空間を感じてもらおう』『日常を忘れてリラックスしてもらおう』と考えているように見受けられました。
資本主義社会において蔑ろにされがちな原始的なあたたかさというか心を感じて素敵だなぁと思いました。
面白い!ポイント③素敵でニッチな出版社
私は結構本を読む方の人間だと自負してはいますが、それでも全ての出版社、新進気鋭の出版社を把握しているわけではありません。
こちらの本では実際にフリーで活躍してらっしゃる矢萩さんイチオシの出版社を知ることができます。
横浜の春風社
インドのタラ・ブックス
やり手編集者の安原顯(やすはらあきら)氏
自由が丘のミシマ社
絵本作家のミロコマチコ氏
などなど…
普段ぼーっと王手出版社からでた文庫本を読んでいるだけでは知ることができない名前ばかりでとても新鮮でした。
とくにインドにもそんな出版社があるんだ!と驚いたので今度探して読むなり買うなりしてみようと思います。
インド民話とか楽しいですよね。インド神話の多色刷りの本とか字面だけでも欲しくなってしまいます…金欠なのに…
まとめ
私がなによりこの本を評価したいのは『選択肢というものは無限にあるのだ』ということをインドと日本を渡り歩いた方はの生きた言葉で聞くことができる点にあると思います。
ほかにも『才能なんてない』や『個性的でなくていい、平凡でいい』というメッセージ性は現代に疲れた人や多感な学生くらいの若者に優しく響くのではないでしょうか。
ご精読ありがとうございます。
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