輪るピングドラム大考察【超個人的生存戦略】パート3
こんにちは、erimaです!
今日も引き続き【輪るピングドラム】の考察をして行きます!!
17話 許されざる者
ピングドラムを探せ
再びピングドラムを探せと命じられた高倉兄弟。帽子様によれば、『見つけられなければ、お前たちの大切なものを失うことになる』のだそうです。
また冠葉は最後まで自分だけの犠牲で愛する陽毬を救おうとしましたが、それではどうやらうまくいかないようです。ただ帽子様は繰り返します。『ピングドラムを探せ』と。
一方で、時籠と多蕗は亡くなった桃果が忘れられないようすです。多蕗は高倉兄弟に非はないと言いますが本当にそう思っているのでしょうか?
渡瀬のセリフもきになるところです👇
「人間の世界では真実は必ずしもほんとうのことじゃない。人間は見たい欲望や願望だけを真実という。
人間は真実の口実になれば、人だって殺せるんだよ。戦争だよ。もうすぐ戦争が始まる。」
また以下抜粋します。
「生娘がなぜ自分の世界を変革できないかご存知?」
「その若さが世間に消費されてすり潰されることを恐れているから世界の半分しか見えていないのよ。」
「賞味期限の切れたあなたには自分の人生をディスカウントするしか生きる術はない。」
「あなた自身が自分を信じない限り、あなたの人生は消費されるだけ」
またエレベーターのシーンにも注目したいところです。このシーンはウテナに登場するエレベーターに酷似しています。
ウテナのシーンでは、
「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく…
我らは雛、卵は世界だ
世界の殻を破らねば、我々は生まれずに死んでいく
世界の殻を破壊せよ」
という台詞が何度も繰り返されます。
BGMもどこか胸騒ぎを感じさせるようなメロディになっています。
18話 だから私のためにいて欲しい
多蕗の過去
この回において多蕗は、才能しか愛さない母親に捨てられたことが明かされます。
もっとも悲しいことは、多蕗の母が再婚した後にできた弟の方が多蕗よりも音楽の才能に秀でていた、という点です。
まるでモーツァルトとサリエリのような関係性とでもいうのでしょうか。このことは幼い彼の心を深くえぐり、傷つけたのです。
子どもブロイラーで今にも透明な存在になりそうだった彼を助け出したのが、桃果でした。
ここで、今更ながらブロイラーの意味を確認しておきたいと思います。
ブロイラーに送られた鶏は、個々の権利が失われます。大量にいる鶏肉候補のうちの一体になってしまうのです。
このように、もの同然に消費され、個人がすり潰されて行くのがこどもブロイラーなのでしょう。
またこどもブロイラーでは、救いの手すらの焼き切ろうとします。(ライフラインの焼き切り)
この手法はカルト教団やマルチ商法などでも見られるやり方です。
集団の一員という帰属意識を植え付ける、もしくは一般社会から隔離して、一切の関わりを絶たせることで結果的に自我をもたない人間が出来上がります。
自我がすり潰され、集団の一部に集約されて行く様は、本人からすれば一種の安心感を産むかもしれません。
でも寂しさや自己喪失感はそのような取り組みでは改善できないのです。
19話 私の運命の人
陽毬の運命の人
運命が回りだす。 どうやら陽毬は、自分の過去を思い出せないようです。そのことは、彼女に居場所がないように錯覚させました。
兄弟が彼女に依存しているようにみえて、じつは彼女も二人の兄に依存していたのです。
また作中で出現頻度の高まっていく、リンゴの意味するものとはいったい何なのでしょうか。
20話 選んでくれてありがとう
氷の世界
「この世界は間違えている。勝ったとか負けたとか、誰のほうが上だとか下だとか、儲かるとか儲からないとか、認められたとか認めてくれないとか、
選ばれたとか選ばれなかっただとか。奴らは人に何かを与えようとはせず、いつも”求められる”ばかり考えている。この世界はそんなつまらない、
きっと何者にもなれない奴らが支配している。もうここは氷の世界なんだ。しかし、幸いなるかな、我々の手には、希望のたいまつが燃えている。これは聖なる炎である。明日、我々はこの炎によって世界を浄化する。
今こそ取り戻そう。本当のことだけで人が生きられる美しい世界を。これが我々の生存戦略なんだ。」
透明にされているこどもたち=資本主義社会もしくは競争社会の暗示なのではないでしょうか。ブロイラーよろしく競争にかけられ、いらないものは処分されていく。
競争がすべての世界では選ばれないことは、透明になり、死んでいくことを意味するのです。私たちの社会も、透明なこどもたちを産んではいないでしょうか?
運命の果実を一緒に食べる=高倉家のこどもに取り入れる
ことを表しています。
21話 僕たちが選ぶ運命のドア
ピングフォースとkigaの会
ピングフォースあらため、kigaの会は、実行者をかんばに変え生き続けていることがわかりました。またかんばの父は組織に殺されたといってもよさそうです。
夏芽がいっていたペンギンのたとえはこのことだったのですね。またアリアドネの赤い糸の例えからわかるように、実の兄であるかんばを助けたかったことがわかります。
22話 美しい棺
醜い社会と美しい思想
前回に引き続き、渡瀬の悪の顔が見えてきました。亡霊のように現れた彼は、何者なのでしょうか。
それから高倉兄弟について気づいたことがあります。それは誰も両想いでないことです。ひまりは昌馬を、冠葉は陽毬を愛していて、昌馬だけが家族として二人を愛していたのです。
ひまりを守るため、かんばは組織の幹部として自身の手を汚していきます。かんばは夏芽家にいた頃すでに自分を犠牲にしていました。そのときからずっと彼はkigaの会に囚われ続けていたのです。
美しい棺=kigaの会
一見美しい理念をもった革命組織のようにみえるkigaの会は、実際のところ人間の自我をすりつぶし犠牲しかうまない棺であったという趣旨のことを夏芽は言っていました。
けれど一方で、肥え太った人々にしか実り(利益や金銭)がいきわたらないという現実もまた正しいのです。
そのため、こうした醜い世界の存在が、危険な思想をより甘く感じさせ、禁断の果実をかじらせるのでしょう。
23話 運命の至る所
壊すしかない箱
「世界はいくつもの箱だよ。人は体を折り曲げて、自分の箱に入るんだ。ずっと一生そのままで。やがて箱の中で忘れちゃうんだ。自分がどんな形をしていたのか、何が好きだったのか、だれを好きだったのか。だから僕は箱から出るんだ。箱を壊すんだ。」
半分にされた桃果と渡瀬。それは運命の乗り換え、もとい渡瀬を追放する呪文が完全でなかったことが原因でした。
愛でどれだけ壊せるか。そんな風に渡瀬は冠葉をそそのかしますが、それは本当に愛といえるのでしょうか。愛はきっと生産的であたたかいものであるはずです。なにかの犠牲の上にしか成り立たない愛は愛ではないのです。
呪文を唱えることで、術者本人はその身を炎に焼かれて世界から消えてしまうのだといいます。(どことなくまどマギの円環の理っぽい概念です笑)
「人間っていうのは、不自由な生き物だよね。なぜって。だって自分のいる箱から一生出られないからね。その箱はね、僕たちを守ってくれるわけじゃない。
僕たちから大切なものを奪っているんだよ。たとえ隣に誰かいても、壁を越えてつながることもできないも。僕らはみんな独りぼっちなのさ。その箱の中で僕たちが何かを得
ることは絶対にないだろう。出口なんてどこにもないのさ。誰も救えはしない。だからさ、壊すしかないんだよ。箱を。人を。世界を。」
24話 愛してる
本当の愛
世界を壊してまで、得る光に意味はあるのでしょうか。
ピングドラムは、心臓の形をしていました。半分なくなったピングドラムは赤く燃えて、まるで禁断の果実のようでした。
運命の乗り換えをしたことで、世界は変わりました。世界から消えてしまった彼らは、罰を受けたのです。しかし、きっと彼らは陽毬の心の片隅に魂の記憶として残り続けるのだと思います。
だから、本人にはそんな覚えがなくても涙がこぼれてしまうのです。一人の人を愛し世界を愛した彼らの運命は、まだ始まったばかりなのです。
考察の総まとめ
各登場人物の役割をまとめました!
- ひまり=帽子様が宿るための媒介 高倉の罪を背負った
- 昌馬=両親を憎み、ひまりを守りたいと思う、唯一の良心
- 冠葉=自己犠牲を通じて兄弟を守った。それが行き過ぎるあまり組織の人形に
- 夏芽=冠葉の本当の妹。冠葉のアリアドネになりたかった。
- 時籠=桃果によって救われる。桃果を取り戻したい。
- たぶき=桃果によって救われる。桃果を殺した高倉が憎い。
- 帽子様=桃果の残骸。
- 渡瀬=人類悪。呪い。黒兎に分裂。ピングフォース(kigaの会)の創設者。
ピングドラムとは、愛であり、生命そのものを指していると解釈しました。
渡瀬は作中で、人間は孤独でつながれない生き物だといいました。これはあっているように見えて間違っています。
彼の大きな間違いは、人々が孤独を、箱の破壊でしか突破できなかった点にあります。私たちは、自分の箱から自分で脱却し、連帯し、繋がらなければならないのです。
まとめ
運命について常日頃から考える人は少ないだろうと思います。私も今回、この作品をみるまで真面目に考えることもありませんでした。
しかし、この24話という短い時間の中で主人公たちに寄り添い、悩み、つまずくことを通じて運命に対して自分なりの結論に至りました。
この考えはいずれ覆されるかもしれないし、そのままかもしれません。しかしながら、このように考え考察できた機会に感謝したいです。
前回の考察はこちら👇