【書評記事】あなたはなんて訳しますか?『I loveyouの訳し方』
こんにちは、erimaです。
この間別の記事で紹介した本をもう少し取り上げたいな、と思いましたので再掲示の形にはなりますが書評したいと思います。
この間の記事👇
『I loveyouの訳し方』望月竜馬著 ジュリエット・スミス絵
もしかしたらTwitterでみたことのあるものもあるかもしれません笑笑
個人的にエモい!と思ったものを取り上げつつ、感想を書いていきます。
すきになる ということは 心をちぎってあげるのか だからこんなに痛いのか
工藤直子「痛い」より
恋は落ちたり落とされたりする、忙しないもので、病にも似た感情かもしれません。
好きな人のために心を砕いたり、哀しくなったりするのは、きっとこころをちぎってあげてしまったから。
しかも厄介なことに、こころをもらっている本人は気づいていなかったりするんですよね。切ない。バレンタインデーのチョコのようにこころは不平等に分配されてしまっているのかもしれません。
あなたがたがしあわせになりますように。そして、あなたのことを永遠に忘れられないだれかのことは、どうかわすれてください。
ハンス・クリスチャン・アンデルセン「アンデルセン ある語り手の生涯」より
これもすごくエモい。というか私自身これTwitterランドでみました。出典これだったんですね。アンデルセンといえば人魚姫で有名ですが、あの童話のモチーフは自身の叶わなかった恋であったとか…泡になってしまってもなお、その人の幸せを願わずにはいられない。エモい…尊い…
私が死んだら、骨のかけらをあなたの身体に収めてほしい
いつもつないでいた左手の薬指の骨
そしたらあなたに内蔵されて
カルシウムになれる
私あなたのカルシウムになりたい
綿矢りさ「しょうがの味は熱い」より
ちょっと気持ち悪い。でもなんとなく気持ちはわかる。そんな感じの一言です。
昔よく読んでいたオカルト系の掲示板で見た話に「骨かみ」という風習がありました。
今でもあるのかよくわからないのですが、福岡のあたりに伝わる風習で、家族が亡くなって遺骨になったときに遺族がその骨を食べる(というか噛む?)というものです。
初めて聞いた時はうわぁ、、カニバかよ…と思いましたが、感情としては上の一言に近いのかなと思います。共感はできませんが理解はできます。大事すぎて食べたい、食べて欲しい。きみの○臓がたべたい、的なね。
愛しているから、愛していると云えないのです。
許してください 私の不器用な沈黙を
私はあなたをとりかこむ空気になりたい
あなたの肌を結ぶ露になりたい
谷川俊太郎「十一月のうた」より
これずるいですよね〜〜〜。百歩譲ってこれを言ってくれれば「そっかぁ(照れ)」ってなりますけど、これ思ってたんだとか言う人がいたら、多分殴る。というか縁切りたいレベルですね。
谷川俊太郎だから許される感じすらあります。いや気持ちはわかるんだけども。
でも、好きって言いたくなかったの。
たぶん、それよりずっと好きだったから。
村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」より
これはかわいい。めちゃめちゃ美人の女の子に言われたい。私女だけれど、こんなこと言われたら抱きしめちゃいますね。即入籍です。
言語によるコミュニケーションって限界があるよなーとは常々思っているので、こういうの大好きです。
でも難しいのは、この「好きって言いたくないの」っていうのを言語化できるところが可愛いのであって、いや好きって言ってるじゃんっていう批判は甘んじて受け入れます
結局コミュニケーションじゃん…つらいです。
僕は君が結婚したら、死ぬ。きっと死ぬ。
なんかこの拗らせた童貞みたいな感じが好きです。年上の渋いおじさまに言われてもギャップで萌えるし、かわいい年下から言われてもキュン死確定。
小学生かよ、生きろ。でもその弱さを逆に出しつつ、強がってる?感じがいいですね。
まぁ、実際こんなこと言ってくるのはメンヘラか紐なので信じちゃダメです。
いつもきみをみていたいのだ。
ぼくはいつもきみをおもっていた。
でもおもったり想像するだけでは不安で死にそうになる。
きみのそばにいてさわったりしたい。
毎日髪ののびるのをみまもったり、冷たいおしりにさわったりしたい…
倉橋由美子「聖少女」より
これはじめ読んだときは、「はいはい変態乙〜」くらいにしか思わなかったんですけど違う可能性見つけちゃって戦慄しましたよね。
髪伸びるのはいいとして、冷たいおしりって何?マニアックすぎません??
もしかしてこの人は、好きすぎて拉致監禁、そのままエンバーミングでもしちゃったのかなーなんて妄想しちゃいました。
いや元の本も読んでませんし、文脈も汲んでないので完全私の妄想なんですが、もう伸びることのない髪の毛を撫でながら愛しい恋人を眺める主人公。
…嫌いじゃないです笑笑
おしり冷たいんだろうなーちょっと死人の身体をじっくり触ったことないのでなんとも言えないですが、主人公はずっと伸びない髪の毛を撫で続けるんだと思います。
胸糞悪エンド感がすごい。はらだ先生の漫画にありそう…
僕はもう何度も、彼女を食べる夢を見た。
あまり火を通さない、生焼けのうちがいい。
彼女は従順で、肉になっても微笑を絶やさず、仔牛と野鳥の中間のような味がして、
なんとも言えずいとおしい。
彼女に対する情感が、煮詰められて、けっきょく食欲に収斂してしまうらしいのだ
はい、きました。あきらかカニバリズムです。食べたくなっちゃうんですよね。
よく食べちゃいたいくらいかわいいなんて言葉がありますが、そっか、食べちゃったか…。読みながら菩薩顔になりました。
人肉ってそんなに美味しいとは思えないんですけど、好きな人だとまた違うんですかねぇ。一生知りたくないな、好きな人の味は。ただ気持ちはわかります。
でもさっきまで可愛い可愛いしてた生物をそのまま調理して食べ始める人がいたらかなり怖いですよね。サイコパスでしかないわ。
きみを知る前の人生を忘れてしまいたい。
ぼくはきみから始まり、きみで終わる、きみがすべて、
きみだけを通して呼吸している。
私がかつてよく聞いていた韓国のアイドルグループにSHINeeという方々がいるんですけれども、これを見たとき彼らの超初期の曲「Love is oxygen」を連想しました。
タイトル通りめちゃめちゃクサい曲なんですけれど、この一言にも似たような雰囲気を感じます。ただこれ言ったのがコクトーだからおしゃれチックに聞こえるという。
なんというコクトーマジック。愛の国フランスのなせる技なのでしょうか…
私が生まれたのは、すでに二十四年生きたあとだった
「なんかコクトーの言葉に似てない?」と思ったそこのあなた、大正解です。
こちらはコクトーの愛人であったジャン・マレーの言葉です。間違いなくコクトーの言葉に対する返歌じゃん。二人ともだいぶラブラブな感じが伝わってきて、微笑ましい通り越してうざったいくらいです。バカップルか。末永く爆発しろ。
カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねぇ、
どこまでもどこまでもいっしょに行こう。
僕はもう、あのさそりのように、本当にみんなの幸のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
宮沢賢治のアイラブユーといったら「シグナルとシグナレス」だろ…と若干意気消沈しました。まあ一般的な知名度でいったら「銀河鉄道の夜」のほうが有名ですもんねそうですねーといじけつつ読んでたのですが、そっか解釈によってはこれもアイラブユーかぁとしみじみしましたね。
別にカムパネルラとジョバンニは恋仲でもなんでもないのですが、ジョバンニの言葉はそういうちっちゃいものではありません。もっと世界に接続した巨大な愛でしょう。
さそりの話は原典よめばわかるので割愛しますが、ジョバンニにとって自分の愛を注ぐ対象はもはや一人や一といった単位ではありません。
たとえがオタクになってしまって申し訳ないのですが、それはまるで自ら円環の理となった鹿目まどかのような。全体の全世界の幸せの前に無条件で自らを差し出す、悲しいまでの献身性はもしかしたら誰にも知られることもないかもしれない。
しかし、まどかにこだわり続けるほむらのように、誰かが覚えていてくれるかもしれない。不確かで危ういような、脆いようで強いような。これもきっと紛れのない愛の形なんです、きっと。
結論とまとめ
今回は100個のアイラブユーの中からさらに私が独断で、気になったものコメントしたいものを選び、書評じみたことをしてみました。
多くの作家が自分なりの愛の言葉を模索し、届けようとしていた奮闘の足跡が見て取れたのではないでしょうか。かくいう私も知らない人やそんな表現するのかと驚いたり共感したりしながら、楽しく読了することができました。
日本人は学校でI Love Youとでてきたら脊髄反射的に『私はあなたを愛す』と訳します。でも、それはただ意味を言葉に掘り起こしただけにすぎないのであり、本当の意味で日本語、しいてはあなたの言葉に訳したとは言えないのではないでしょうか。
真偽の程は確かではありませんが、アイラブユーと夏目漱石に関してこんな逸話があります。夏目漱石は優秀な教授であり、生徒さん方に英語を教えていました。
ある生徒さんがI love Youを「我君ヲ愛ス」と訳したそうです。
すると漱石は「日本人がそんな風に訳すわけがなかろう。『月が綺麗ですね』で充分だ」といったそうなんですね。
実際、奥ゆかしい日本人が欧米人のように日常的に愛を囁くわけがないと、留学経験もある漱石は身を以て知っていたのかもしれません。が、それ以上に訳すことにおいての本質を理解していたとも言えるでしょう。
訳す技術というのは、誰かに教わって身につくわけではありません。
意味を知り、自分をしり、言葉を知った時に自然と零れるものだと私は思っています。
私もいつか自分の言葉で相手に気持ちを伝えられたらいいな、と思います。
…相手もそのようなひとであればなお良いなぁ、なんて面倒な理想を抱えつつ記事を締めたいと思います。
ご精読ありがとうございました!